「現金1万円が入った財布を、今なら8,000円でお譲りします!」
もし道端でこんなセールスをされたら、あなたはどう思いますか?
普通なら「ラッキー!即買いだ!」とはなりませんよね。
「……え、なんで? 中に入ってるお札、ニセモノじゃないの?」
「財布がボロボロなのかな?」
「あるいは、盗品か何か……?」
と、まずは 「安すぎる理由」 を疑うはずです。
実は、株式投資の世界にもこれと全く同じ現象があります。それが 「PBR(株価純資産倍率)1倍割れ」 という状態です。
前回の記事では、PERを「マンション投資の回収期間」に例えてお話ししましたが、今回のテーマは PBR です。
投資本には必ず「PBR1倍を割れたらお買い得」と書いてあります。かつての私もそれを信じて、「お宝発見!」とばかりに飛びつきました。
しかし、結果はどうだったか。
株価は一向に上がらず、何年も「万年割安」のまま放置される……。そんな 「安物買いの銭失い」 を何度も経験しました。
今日は、そんな失敗を重ねた私だからこそ伝えられる、
- PBRの数字に隠された「ワケあり」の正体
- 今、日本株市場で起きている「PBR改革」というチャンス
について、数式は最小限に、できるだけ噛み砕いてお話しします。
1. そもそもPBRとは? 「解散価値」でイメージしよう
まずは教科書的な定義をサクッとおさらいしましょう。
PBR = 株価 ÷ 1株あたり純資産
……はい、もう数式は忘れて大丈夫です。
PBRを理解するには、 「会社が今すぐ解散(店じまい)したときに、株主の手元にいくら戻ってくるか?」 をイメージするのが一番です。
これを 「解散価値」 と呼びます。
例えば、ある会社が事業を辞めて解散することになったとします。
工場の機械を売り払い、在庫を処分し、借金をすべて返済しました。その結果、手元に 100億円 の現金が残ったとしましょう。
この会社の発行している株数が100万株なら、1株あたりの取り分は 1万円 です(これをBPSといいます)。
このとき、もし現在の株価が 1万円 なら、
「解散して戻ってくる金額 = 株を買う金額」なので、 PBRは1倍 です。これが適正価格です。
しかし、もし株価が 8,000円 だったらどうでしょう?
8,000円で買った株が、解散すれば1万円になって戻ってくる。
つまり、 「1万円入った財布が8,000円で売られている」 状態です。これが PBR 1倍割れ(0.8倍) です。
計算上は、買えば買うほど儲かる「魔法の状態」に見えますよね。
でも、冒頭でお話しした通り、うまい話には必ず裏があります。

2. なぜ「1万円入りの財布」が安く売られているのか?(PBRの罠)
なぜ市場(投資家たち)は、1万円の価値がある会社に8,000円の値札しか付けないのでしょうか?
私が過去に痛い目を見た経験から言うと、そこには大きく分けて2つの「安売りの理由」があります。
① 中身が「現金」とは限らない(資産の質が悪い)
帳簿上は「資産1万円」となっていても、その中身が現金とは限りません。
- 誰も買わないような古い工場の設備
- 流行遅れで売れ残った大量の在庫
- 回収できるか怪しい貸付金
これらが大量に含まれている場合があります。
「1万円入りの財布だと思って買ったら、中身はボロボロの古紙幣と使えないクーポン券だった」なんてことになれば、8,000円でも高い買い物です。
投資家たちはそれを見抜いているからこそ、安値で放置しているのです。
② お金を持っていても「増やす気」がない(万年割安)
たとえ中身が現金たっぷりの優良企業でも、そのお金をただ銀行口座に眠らせているだけの会社は嫌われます。
私たち株主が企業にお金を託すのは、事業で増やしてほしいからです。
「財布にお金は入っているけど、それを投資にも使わないし、配当として株主に還元する気もありません」
そんな会社の株は、誰も欲しがりません。人気がないから株価は下がり、結果としてPBR1倍を割れてしまうのです。
これを投資用語で 「バリュートラップ(割安の罠)」 と呼びます。
私は過去、この罠にハマり、何年も株価が動かない銘柄を持ち続けて貴重な時間を無駄にしました。

3. それでも今、「PBR1倍割れ」がチャンスな理由
「じゃあ、低PBR株は買わない方がいいの?」と思われたかもしれません。
実は今、 日本の株式市場では、これまでの常識を覆すような変化 が起きています。
それが、東京証券取引所(東証)による 「PBR1倍割れ是正要請」 です。
簡単に言うと、東証が上場企業に対して、
「PBRが1倍を割れている(=解散した方がマシだと評価されている)なんて恥ずかしいと思いなさい。もっと株価を上げる努力をしなさい!」
と、かなり強いプレッシャーをかけ始めたのです。
これを受けて、今まで「万年割安」で眠っていた企業たちが、慌てて動き出しました。
- 溜め込んでいた現金を使い、 「増配」 (配当を増やす)をする。
- 「自社株買い」 をして、株価を無理やり引き上げる。
つまり、これまで「やる気のない大家さん」だった企業が、急に「入居者様(株主)のためにリフォームします!家賃も還元します!」と言い出したようなものです。
この変化の波に乗ることができれば、 「割安な株価で買い込み、将来の株価上昇と増配の両方を狙う」 という、高配当投資家にとって最高のシナリオが描けます。

4. 失敗しないための「PBRチェックリスト」
では、数ある低PBR株の中から、どうやって「お宝」を見分ければいいのでしょうか?
私が銘柄を選ぶ際、必ずチェックしているポイントは以下の3つです。
- 「現金」をどれくらい持っているか?工場や在庫ではなく、すぐに使える「現金・預金」が豊富な企業を選びます(=資産の質が良い)。
- 変化の兆しがあるか?決算資料(中期経営計画など)に、「PBR1倍を目指します」「配当性向を引き上げます」といった具体的な宣言があるかを確認します。口先だけでなく、実際に行動(増配など)を始めている企業は特に有望です。
- 本業は黒字か?いくら資産があっても、本業で赤字を垂れ流している会社は、いずれ財布の中身が空っぽになります。
まとめ:PBRも「定規」であって「答え」ではない
前回のPERの記事でもお伝えしましたが、PBRもまた、単なる「定規」にすぎません。
- PBRが高い = 期待料が乗っているブランド品
- PBRが低い = ワケありのアウトレット品
どちらが良い・悪いではなく、 「なぜその値段がついているのか?」 を考えることが大切です。
特に今の日本株市場では、「アウトレット品だと思って買ったら、中身は新品同様で、しかもこれからプレミアが付く商品だった」というチャンスがゴロゴロ転がっています。
「1万円入りの財布」が安く売られていたら、まずは疑う。
そして中身を確認し、「これならイケる!」と確信できたときだけ、その財布を手に入れる。
そんな慎重さと大胆さを持って、一緒に堅実な資産形成を進めていきましょう。

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