「PERが8倍? 日本株の平均が15倍だから、これはめちゃくちゃ割安だ! 今すぐ買いだ!」
……そして数ヶ月後。
なぜか株価はズルズルと下がり続け、含み損を抱えて呆然とする。
正直に白状します。これは、投資を始めたばかりの私が何度も繰り返した失敗です。
PER(株価収益率)は、投資家が最も頻繁に目にする指標です。おそらく、あなたも「PERが低いほど割安」と教わったはずです。それは間違いではありません。しかし、「低いから買う」という単純な行動は、投資の世界ではカモにされる一番の近道なのです。
今日は、教科書的な定義の解説はそこそこに、
- なぜ、低PER株を買っても儲からないのか?
- プロの投資家は、PERの数字の「裏」をどう読んでいるのか?
この「実戦レベル」の話を、できるだけ噛み砕いてお話しします。この記事を読み終える頃には、あなたの目には「ただの数字」だったPERが、「投資家の期待と不安が詰まった物語」に見えてくるはずです。
そもそもPERとは? 数式は忘れて「不動産」で考えよう
まず、教科書を開くと必ず出てくるのがこの数式です。
PER = 株価 / 1株当たり利益(EPS)
「うっ、計算か……」と身構える必要はありません。この式を丸暗記しても投資には勝てないからです。
もっと直感的に、「不動産投資」に置き換えてイメージしてみましょう。これが一番手っ取り早いです。
想像してみてください。あなたは今、マンションの一室を買おうとしています。
- 物件価格(株価): 1,500万円
- 年間の家賃収入(利益): 100万円
この物件を買ったら、投資した1,500万円を回収するのに何年かかりますか?
答えは簡単、15年ですよね(1,500 /100 = 15)。
実は、これがPERの正体です。
PERの本質:「今の利益水準が続いた場合、投資した元本を何年で回収できるか」を表す年数。
- PER 15倍 = 元を取るのに15年かかる
- PER 10倍 = 元を取るのに10年かかる
- PER 50倍 = 元を取るのに50年かかる
こう考えると、「PERは低いほうが良い(=早く元が取れるからお得)」という理屈が、肌感覚として理解できると思います。
ちなみに、日本株全体の平均は大体15倍前後です。「まあ、商売やってて元を取るのに15年くらいかかるのが普通だよね」という感覚を、まずは基準に持っておいてください。

「PERが低い=買い」の罠(バリュートラップ)
さて、ここからが本題です。
もし、平均15年の回収期間(PER15倍)が当たり前の世界で、「たった5年で元が取れますよ!(PER5倍)」という物件が売りに出されていたら、あなたはどう思いますか?
「超お買い得だ!」と飛びつきますか?
それとも、「……なんか怪しくないか?」と疑いますか?
投資で負けないために必要なのは、後者の感覚です。
スーパーで高級肉が半額シールを貼られていたら、そこには「賞味期限が今日まで」という理由があります。株も同じです。
理由があって安く放置されている株を、投資用語で「バリュートラップ(割安の罠)」と呼びます。これに引っかからないために、警戒すべき3つのパターンを覚えておきましょう。
1. 「来年は稼げなくなる」とバレている
今現在は利益が出ていてPERが低く見えても、プロの投資家たちが「来年は利益が半減するだろう」と予測しているケースです。
例えば、特需が終わる、強力なライバルが出現する、規制が入る……など。株価は未来を織り込むので、業績が悪化する前に株価だけ先に下がります。結果、見かけ上のPERだけが低くなるのです。
2. 一時的なボーナス(特別利益)で嵩上げされている
持っていた工場や土地を売却して、今年だけドカンと利益が出た場合です。
計算式の分母(利益)が一時的に巨大になるので、PERは極端に低くなります。でも、土地は一度売ったら終わり。来年は元の利益に戻ります。これは「実力」ではありません。
3. 万年割安(不人気)
残念ながら、将来の成長が全く期待されていない企業は、ずっとPERが低いまま放置されがちです。「安いからいつか見直されるはず」と思って買っても、5年後も10年後も安いまま……ということがよくあります。
極端に低いPERを見つけたら、喜ぶ前に「なぜ、こんなに安く放置されているのか?」と疑う癖をつけましょう。

逆に「高PER」は割高で危険なのか?
では、Amazonやテスラのように、かつてPERが100倍を超えていた銘柄はどうでしょうか?
「元を取るのに100年かかる」なんて、正気の沙汰ではないように思えます。
しかし、株価はどんどん上がっていきました。なぜでしょうか?
それは、投資家が「今の利益」ではなく「将来の爆発的な成長」を見ているからです。
今は利益が10億円しかなくても、毎年倍々ゲームで増えていき、5年後に利益が300億円になるなら、今の株価は決して高くありません。
これを「成長株(グロース株)」といいます。
- 低PER株(バリュー株): 安定しているが、成長はゆっくり。
- 高PER株(グロース株): リスクはあるが、大化けする可能性がある。
「PERが高い=割高でダメ」と決めつけると、テンバガー(10倍株)のような大チャンスを逃すことになります。高PERは「成長への期待料(チケット代)」が含まれていると考えましょう。
PERを実戦で使いこなす「3つのステップ」
PERの数字に踊らされず、武器として使いこなすための具体的な手順をご紹介します。私が銘柄分析をするときは、必ずこの手順を踏んでいます。
ステップ①:同業他社と比べる(横の比較)
「PER 10倍」という数字単体で見ないでください。
自動車メーカーなら自動車メーカー同士、IT企業ならIT企業同士で比べます。
- 商社や建設業:PERが低め(5〜10倍)が普通
- 食品やITサービス:PERが高め(20〜30倍)が普通
業界によって「適正温度」は全く違います。業界平均より高いか低いかを見ましょう。
ステップ②:その会社の「過去」と比べる(縦の比較)
その銘柄の、過去3年〜5年のPERの推移を見てみましょう(多くの証券アプリで見られます)。
「普段はPER 20倍くらいで評価されている人気株が、今はPER 12倍まで落ちている」
→ ここで初めて「お、割安かも?」という仮説が立ちます。
それが一時的なショック(例:コロナ禍など)によるものなら、絶好の買い場かもしれません。
ステップ③:「会社予想」と「コンセンサス」を見る
ここが一番重要です。PERを計算するときは、去年の利益(実績)ではなく、「今期・来期の予想利益」を使ってください。
株価は未来を見て動きます。会社が出している業績予想が弱気すぎないか? アナリストたちの予想(コンセンサス)はどうか?
「来年はもっと稼ぐぞ!」という期待があるなら、今のPERが高くても株価は正当化されます。

まとめ:PERは「定規」であって「答え」ではない
長くなりましたが、最後にこれだけは覚えて帰ってください。
PERは、絶対的な正解を教えてくれる魔法の杖ではありません。
「PER 8倍だから買い!」ではなく、「PER 8倍なのはなぜだろう? 何か悪い材料があるのかな? それとも市場が間違って評価しているのかな?」と、仮説を立てるためのきっかけ(定規)にすぎないのです。
この「疑う力」と「仮説を立てる力」がついたとき、あなたの投資スキルは初心者レベルを卒業しています。
まずは、あなたが今持っている株、あるいは気になっている株のPERを見て、「なぜ市場はこの倍率をつけているのか?」を自分なりに推理してみてください。その推理が当たったとき、投資はもっと面白く、そして利益につながるものになるはずです。
PERで「割安・割高」の感覚を掴んだら、次は「企業の稼ぐ力(ROE)」や「資産から見た割安度(PBR)」を学ぶと、分析の精度が劇的に上がります。これについては、また次回の記事でじっくり解説しますね。


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